カゼミーロの諦める力

日本の陸上選手為末大さんの著書「諦める力」から抜粋しました。

諦めるとは

諦めるという言葉はなにかを断念するなどのなにかネガティブなイメージを持ってしまいませんか? でも、諦めるの語源は「明らめる」で、仏教の世界では事実を明らかに見るということであり、現実を直視し、それをありのままに受け入れるという意味で使われます。つまりはポジティブなイメージですね。

手段を諦めることと、目的を諦めることの違い

為末さんは中学校の時に100mを11.08秒で走り、そして200m、400m、走り幅跳びでも全国1位のトップアスリートだったそうです。ですが体の発育が早かった為末さんは高校に入ってから身長が止まり、それに並行して100mのタイムも伸びずにライバルたちに追いつかれるようになりました。

ライバルたちの身長が伸びて、自分は伸びない。このままだと100mでは先がないと自覚するようになりました。これまでだと「頑張れば夢は叶う」と信じ一生懸命練習してきた自分にとっていくら練習しても100mでトップに立てないというのが分かったとき、本当にショックを受けたそうです。

そんなとき学校の先生が「400mハードルをやってみては?」と声をかけてもらいました。自分自身でも400mハードルのほうが向いているし、世界のトップ選手でもレースの最後の頃のハードルではうまく歩幅を合わせることができなかったのを目の前で見て、これはいけると確信したそうです。

ここで為末さんは
「100mでメダルを取るよりは400mハードルのほうがずっと楽にメダルが取れるのではないか?」
「100mだろうが400mハードルだろうが金メダルは金メダルだ!」
と考えます。

そう100mは諦めました。
しかし、絶対に諦めたくないこと、それは
「絶対に勝つ!」
ということ。

つまりは
勝つという目的を諦めずに、手段(100m)を諦めた
のです。

これによって為末さんは400mハードルでメダル獲得という偉業を成し遂げたのです。

勝ちやすいところを見極める

「私がこの種目を選んだのは勝ちやすいからです」というスポーツ選手がいたらどう思いますか?

動機が不純だとか努力して克服して頂点に立つほうが大事なんだとか、そんな風に思う人いませんか?

女子のレスリングに吉田沙保里さんってご存知でしょうか?霊長類最強と言われ無敵の選手だったので多くの方がご存知かと思います。同じ女子レスリングにオリンピックで金メダルを取った伊調馨さんもいました。元々、伊調さんは吉田さんと同じ55K級の選手だったのですが、このままでは吉田さんに勝てないと思い世界で勝ちたいという強い目的があったから階級を変えてオリンピックで金メダルを獲得したそうです。

いくら努力しても現状のままではうまくいかない、こんな経験をお持ちの方、それは勝てる可能性の低いところで勝負しているのかもしれません。

勝てる可能性が高いことを見極める。今はレアル・マドリードの主力選手にもなったカゼミーロの話です。カゼミーロはインタビューでサンパウロFCの入団テストを受けに行ったときのことをこう話しています。

「僕はフォワードの選手だった。僕は体が強くて、その年代では一番背が高かったから、ヘッドでたくさんゴールを決めていたよ。テストに参加したのは12、3歳の頃で、300人の選手の中から50人だけが選ばれるというものだった。その時、コーチがゴールキーパーの選手を呼ぶと、手を挙げたのは3人だけだったのをよく覚えている。

フォワードでは40人くらいの子どもが手を挙げた。その時、僕は自分に言い聞かせた。『競争が激しいから僕はストライカーにはなれない』とね。MFの時も同じことが起きた。その後、コーチが『ディフェンシブMFはいないか?』と言うと、手を挙げたのは7人か8人だった。

僕はそこで『OK、僕はディフェンシブMFだ』と自分に言い聞かせた」 少年時代のこの思い切った決断がその後のキャリアを大きく変えたのです。

自分の目的を達成するためには本当にその手段しかないのかを一度冷静になって考えてみると意外な選択肢が見つかるかもしれません。